公開日 2009年04月01日
明治の中頃、豊中神社の近くに、ちんちろはんという狸がすんでいました。
ある秋の夜のこと、秀一じいさんがほろよい気分で夜道を歩いていると、一人の美しい女性に出会いました。夜中に女性の一人歩きはおかしいとよく見てみると、近所の「つぎの」という娘さんでした。
「つぎのはん、こんな真夜中にどうしたんで。」
秀一じいさんが声をかけると娘はにっこり笑って、姿が消えてしまい、それと同時に今まで歩いていた道が急になくなってしまいました。
「あれえ、どうなったんだ。大吉、たすけてくれえ。」
秀一じいさんは困り果てて息子の名前を呼び、道の真ん中に座り込んでしまいました。
息子の大吉は、父が帰ってこないので、心配して待っていると、誰かが自分の名前を呼んでいるような気がしました。
「誰だ、俺の名前を呼ぶのは。」
大吉が大急ぎで外にでてみると、父が道の真ん中で座っているではありませんか。
「お父さん、何してるの。はやく帰ろう。」
「おお大吉か。よく来てくれた。しかし、道がないのによく来てくれたなあ。」
「(笑)お父さん、何を言っているんだ。道の真ん中に座り込んで、しかも道がないなんて人に笑われるぞ。さあ、帰ろう。」
そう言って、大吉が秀一じいさんの手をひこうとすると、
「あれえ。」
急に目の前にいつもの道があらわれました。それから誰が言うともなく、ちんちろはんのいたずらという評判が広がりました。後に、子供がいたずらをすると、「ちんちろはんが来るぞ。」と言うとおとなしくなったそうです。