公開日 2009年04月01日
豊岡と満穂の境は、昔、入江になっていて、絶好の釣り場でした。
ある夜の夕暮れ、何人かの漁師が、はまべで、取ってきたばかりの「このしろ」という魚をあぶり、酒をくみかわしていました。
「ぎゃっはっはあ・・・。ううん。こりゃあうめえなあ。」
するとそのとき、さあっと一陣の風がふき、燃えていた火が消えました。そしてどこからか、髪を振り乱し、口が耳までさけた鋭い目つきをした老婆がやってきて、
「このしろ欲しや、このしろ欲しや。」
と言いました。
漁師たちは生きた心地がしないでおびえていましたが、一人の漁師が勇気を出して、
「ここには一匹もありません。船にあるのを取ってきましょう。」
と言い、走って逃げました。残りの者も船めがけて走り、沖へ漕ぎだしました。老婆は、恐ろしい形相をして、
「だましたなあ。」
と、追ってきます。
一同必死に漕ぎながら、船の神様に一心にお祈りすると、老婆の姿は消えました。後に里人は、「このしろ婆さん」を供養し、石碑を建て、霊をなぐさめたそうです。その碑は今でも豊久の地に残っています。
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